ホーム > 志岐蒲鉾のこだわり > 細工蒲鉾

細工蒲鉾

30年程前に撮影した映像です。戦後間もない昭和25年(1950)から創り始め、昭和34(1959)年には皇太子殿下御成婚の際、『蓬莱山宝船』も献上致しました。

現在までに60点以上作成していますが、綺麗な写真として残っているのは昭和60年(1985)からの24点のみです。


細工蒲鉾写真


細工蒲鉾の始まり

伝統の常識を超えた新しい試み

蒲鉾細工絵を考案したのは、「志岐蒲鉾本店」初代の細工蒲鉾職人・志岐シヅヱさん(故人)。

大正元年に生まれたシヅヱさんは、父や兄を手伝って、小学生の頃から毎日蒲鉾に接してきた。蒲鉾には、おなじみの板付き蒲鉾やスボ巻きの他に、結婚式や祝儀の席を彩る「飾り蒲鉾」がある。鯛や扇の形をしたものに、寿の文字や鶴亀の模様が入っているものだ。小さな頃から手先が器用で絵も上手、特に色づかいに天賦の才を持っていたシヅヱさんも、器用な手先を生かして飾り蒲鉾づくりに腕を振るっていた。

しかし、彼女は平凡な絞りだし細工に飽き足らず、より高度な摺り出しの技法を用いて、もっと独創的な絵を描いてみたいと思うようになる。図柄も、当時としては誰も思いも寄らなかった日本画に求めた。とはいっても、誰か師匠がいるわけではない。たった一人で工夫や試行錯誤をくり返しながら、第1作目の「御所車」を完成させた。昭和25年のことである。着物の柄から取ったこの作品は、長い曳き手の牛車に色とりどりの花が飾られたもの。こぼれるような花々は、まるで本物のように、匂い立つばかりに美しい出来ばえだったという。

1990年に作った「伊勢大輔」。十二単のあまりの複雑さに、周囲からは「難しすぎる」と反対をする声もあったという。

気の遠くなる作業で生み出されるもの

蒲鉾細工絵は、聞くだけで気が遠くなるような作業の積み重ねによって製作される。まず原画が決まると、それを写真で拡大して、トレーシングペーパーで台紙に写し取る。昔は、壁に幻燈機で映し出して、工場の若い衆が手で写し取ったという。 

そして最初の難関がこの下書きをもとにした「型紙」づくりだ。実に、800~1000枚にも及ぶ型紙を用意しなければならない。全体を細かく分け、色を重ねるごとに型紙を変えるからだ。美人画の命ともいえる瞳の部分だけでも20枚近くある。 

そして、いよいよすり身を使った本番に入る。氷にのせた枠の台に下地の白いすり身を塗りこみ、一度蒸してからそれぞれの部分に型紙を当て、中を木べらで薄く剥いで着色したすり身を少しずつ重ねていく。この行程が「摺り出し」と呼ばれるもので、この作業が何百回と繰り返されるのだ。 

木べらを入れる作業は、すり身が痛まないうちに終わらせなければならず、まさに時間との闘いだ。また色のつなぎ目を丁寧になじませないと、蒸した後に剥がれてしまう。神経を研ぎ澄ませた作業がつづけられる。気の遠くなるような細やかな作業を経て、丁寧に蒸し上げると、ようやく作品が完成となる。1枚の蒲鉾絵ができあがるまでに、実に50時間以上を要するという。着色には食用色素の他に、コーヒーや卵の黄身、抹茶などを使用。10色に満たないこれらの色を混ぜ合わせることで、日本画のあの幻想的な色調が再現されるのだ。

細工蒲鉾に一番大切なへら。

業界を驚かせた、「摺り出し」技法

シヅヱさんは、この作品を「全国蒲鉾品評会」に出展。参加者から驚きと絶賛の目で迎えられた。「これが本当に蒲鉾でできているのか?」作品の前は鈴なりの人だかりだったという。以来、シヅヱさんは、上村松園や伊東深水の美人画を題材に毎年蒲鉾細工絵を出展し、志岐蒲鉾本店の名を全国に轟かせた。「大川の志岐蒲鉾本店の細工蒲鉾を見るために品評会に行く」というメーカーもあったという。

芸術性の高い作品は数々の賞に輝き、業界では唯一「高松宮賞」も受賞。昭和34年には、皇太子ご成婚に献上するための蒲鉾絵制作を依頼されるという栄誉に浴し、渾身の作品「蓬莱山宝船」が東宮御所に納められた。

思いを受け継ぎ、美しい細工蒲鉾を作り続ける

「蒲鉾細工絵」を考案した志岐シヅヱさんがパーキンソン病を患い、細かい作業ができなくなったため、姪にあたる、高見元子さんがシヅヱさんの意思を継ぎ「細工蒲鉾」を作り始め、現在に至る。

何度作ってもまだ自分の納得できる作品はできません。特に人を描く時の髪の生え際が難しくて…でも上手くいかないからこそやりがいがあるのかもしれません」

「絵とはいえ蒲鉾は食べるもの。すり身にもこだわって良いものを使ってます。すると、不思議と色も綺麗に出るんですよね」

しかし、普通の絵画とは違い、細工蒲鉾は一ヶ月程しか保たない。

「苦労して作っているので、もったいないなんて思っちゃいますけど、叔母(シヅヱ)はだからこそ、またより良い新しいものをといつも前向きでした」。

花のように儚く可憐な細工蒲鉾。その美しさを追求し続けるため、高見さんは努力し続けていく。

ひとつの作品に、800枚~1,000枚の型紙 が使われる。

繊細な細工を生み出す道具類。